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麻酔科

         
麻酔科

手術中の麻酔モニター(犬)

手術料金の格差について

機器 項目

普及率

当院使用
麻酔器 再呼吸式(3 kg以上)            
非再呼吸式(小型)            
人工呼吸器 従量式            
従圧式            
麻酔管理者 術者以外の獣医師            
血液検査 血球(多項目)            
生化学(多項目)            
凝固系            
凝集系 獣医療では普及していない 保有のみ
血液ガス             ×
手術モニター 心電図            
SpO2            
EtCO2(メイン)            
   (サイド)            
血圧(非観血式)            
    (観血式)             保有のみ
麻酔濃度            
換気量            
吸入気酸素濃度            
PV-LOOP            
体温            
混合ガス 発生装置            
体温維持装置 保温装置            
高度外科機器 高周波メス 等            
血管シーリング 糸を使用しない             
滅菌器  高圧 / ガス 等            
除細動器 カウンターショック            
手術録画 専用カメラ録画             一般録画
術後遠隔モニター 遠隔心電図モニター             状況に応じて
遠隔カメラ            
レントゲン検査              
超音波検査              
内視鏡(参考値)  普及率  約 20 %            

表は、町の動物病院で、一般の手術の際に使用する医療機器です。手術料金は、去勢・避妊手術でさえ、病院間で4~5倍の差がありますが、表を見て頂ければ理由は一目瞭然ですね。高度に専門化されたヒトの医療でさえ、手術における予期せぬ事故は、発生します。いわんや獣医療では・・・。去勢・避妊手術も、ゼロリスクの手術ではありません。町の獣医レベルでもこの程度のシステムは必要です。

麻酔前投与薬(犬猫)

① 鎮静剤投薬
・ミタゾラム

② 鎮痛剤投薬
・ブトルファノール

③ 麻酔薬導入
・アルファキサロン

上記の手順で実施する。通常、①の前に血液検査、レントゲン検査等を実施するが、猫や暴れる子の場合は、検査が②、③の後になることがある。③の後、以下の吸入麻酔に至る。

吸入麻酔薬の選択

・ イソフルラン
・ セボフルラン

セボフルランは、イソフルランに比べ、導入・覚醒が速く、粘膜刺激も少ないが、代謝物が多い。 循環動態に対しては、同等だが、セボフルランは脳圧に対する作用があるとの報告が一部でなされている。

麻酔回路の操作手順

以下の操作は、鎮静剤を投与し、心電図計、血圧計、体温計を装着以降の操作になります。

① 麻酔回路の選択
・ 再呼吸回路 : 3 kg以上の動物
・ 非再呼吸回路 : 3 kg以下の動物
キャニスター部の抵抗があるので、小型動物は非再呼吸回路を使用する。

② 輸液
・ 酢酸リンゲル等を用いる
・ 維持量は通常 3~5 ml/kg/hr

③ マスク、フローバイでの酸素化
・ 100 %酸素
・ 2~5 l/min
・ 3~5 min
酸素流量が低いと、マスク内の呼気が再呼吸される。高すぎると、吸気が乾燥する。

④ マスクでの麻酔
・ ②の条件で吸入麻酔開始
麻酔回路内の麻酔濃度は、一般的に酸素流量2 l/min以上で安定する。

⑤ 気管挿管
気管挿管を実施し、各種生体情報のモニターを開始。

⑥ 酸素流量の設定
・ 10 kg以下の動物 : 2 l/min
・ 10 kg以上の動物 : 再呼吸回路は換気量から算出

● 10 kgの動物の場合
分時換気量は2 l/min(200 ml/kg/min × 10 kg)。再呼吸回路の場合は、原理的には、再呼吸分があるので2 l/min以下でも可能だが、回路内の麻酔濃度の安定をみながら(通常 2 l/minで安定)、流量は考える。再呼吸分のガスが多いほど、つまり流量が低いほど、吸気の乾燥は避けられる。

⑦ 換気状態のモニター
・ 犬 :  30-40 mmHg
・ 猫 :  25-35 mmHg

カプノメーターで換気状態をモニターする。メインストリームと、サイドストリーム法があり、サイドストリームは、小型動物(換気量が少ない)の場合や、酸素流量が高い場合、予期せぬ新鮮ガスのサンプリングの影響で、見かけ上数値が低く出るので注意が必要。適正な数値にならなければ(数値が高ければ)、低換気と考え人工呼吸を考慮する。

⑧ 換気量のモニター
・ 分時換気量 :  200 ml/kg×体重 kg
・ 1回換気量 :  8~15 ml/kg
換気量が少ない場合は、人工呼吸を考慮する。

吸入気酸素濃度(FIO2)の設定

・ 100 %酸素+空気の混合で、FIO2 60 %とする
・ 混合比は、1 : 1
・ ⑤の10 kg以下の動物の場合、100%酸素と空気を共に1l/minで混合する(計 2 l/min)

FIO2 = { (100×酸素流量) + (21×空気流量)} = 60.5 (%)
(酸素流量 + 空気流量)× 100

100 %酸素による肺の障害を避けるため、麻酔が安定した後、酸素濃度(FiO2)を下げる。通常、100 %酸素と空気を、1 : 1で混合するとFIO2 60 %になる。ヒトの場合は、PaO2を測定しながら、FIO2 40%以下を目ざすが(25 %程度まで)、獣医療の場合はPaO2を測定するケースは少なく、60 %が一般的である。特に、以下の人工呼吸の場合は、重要な操作である。

人工呼吸器の選択

① 対象動物
(1) 呼吸コントロール系が抑制されている動物
・ プロポフォールを使用した手術
・ オピオイド系薬剤を使用した手術
・ 肥満
(2) 駆動系が抑制されている動物
・ 短頭種(胸腔が広がりづらい)
・ 肥満
・ 横隔膜の異常(外傷等)
・ 腹部の腫瘍、子宮蓄膿症
・ 胸部の骨折
(3) 痛みがコントロールされていない動物
・ 呼吸速迫
・ 侵襲性の強い手術
(4) 低換気状態の動物
(5) 脳圧を安定させたい症例
(6) 開胸手術

② 人工呼吸器の種類
(1) 従圧式
・ 吸気圧が一定
・ 個体により換気量を微調整する
(2) 従量式
・ 換気量が一定
・ ファイティングなどによる肺損傷に注意する

transpulmonary pressureが、35 cmH20を超えないように注意する。

③ 人工呼吸の種類

(1) CMV(従圧式 : PCV、従量式 : VCV)
自発呼吸がない場合の強制換気(人工呼吸)モード
(2) A/C
自発呼吸がない場合は強制換気、自発がある場合は補助換気を実施
(3) SIMV

強制換気と、自発呼吸をシンクロさせる方法。

人工呼吸器の使用条件(PCVを中心に)

① 各種条件
・ 吸気圧 : 8~15 cmH2O
・ 呼吸回数 : 8~16 回/分
・ 換気量 : 10~20 ml/kg
・ PEEP : 0~4 cmH2O
・ I:E比 : 1 : 2~4
・ 吸気時間 : 0.3~2.0 S
・ 血圧の管理(以下参照)

② 分時換気量の理論値
分時換気量 : 200 (150~250)  ml/kg × 体重 kg

③ カプノメーターの数値
・ 犬 : 30-40 mmHg
・ 猫 : 25-35 mmHg
PEEPをかけた場合は、その圧分がベースに残る(0にはならない)。

④ PV-LOOPでのチェック
・ 経時的な肺コンプライアンス
・ 過剰吸気圧による肺の過膨張(beaking)
・ PEEP
・ リーク
・ 気管チューブの屈曲
・ 気道抵抗の増大

⑤ 血圧の管理
・ 収縮期血圧 : 80 mmHg以上
・ 平均血圧 : 60 mmHg以上
吸入麻酔、人工呼吸は血圧を下げるので注意が必要

⑥ 体温の管理
非常に稀に、麻酔薬による悪性高熱が発生する。体温とカプノメーターのモニターは、獣医師の常時チェックが重要となる。

⑦ パルスオキシメーター
肺酸素化の指標(理想的には95 %以上)

⑧ 流量波形
適切な吸気時間を管理する

⑨ 単位
hPa、mmHg、cmH2Oなどの単位の混在に注意

従圧式は、カプノメーターを観察しながら、できる限り低圧で換気量を理論値に近づけるように設定する。 分時換気量を上昇させるには呼吸回数を増やし、1回換気量を下げるには吸気時間や吸気圧を下げる。

麻酔に注意すべき犬種、猫種

① 心筋症の多発する犬種
(1) DCMが多発する犬種(ドーベルマン等)
(2) ARVCが多発する犬種(ボクサー、ブルドッグ)
(3) スコティシュホールドなどの純系の猫
疾患の発生率が高くなる2歳以降では、(1)、(3)は心エコー、(2)はホルター心電図検査を事前に実施する。

② 短頭種気道症候群が多発する犬種
短頭腫は、3歳以上で手術のリスクが上がるので注意する。手術は、必ず人工呼吸で実施する。

③ 神経症状(脳、脊髄)を有する犬猫
脳脊髄系の疾患は、麻酔前投与薬や麻酔などで悪化するケースがあります。最悪、目が覚めない症例も報告されています。人間と違い、脳脊髄系の疾患は、検査(CT、MRI)自体も麻酔が必要になるので、苦慮します。当院でも、過去、脳脊髄系の疾患と思われる症例で、手術覚醒後、痙攣して死亡したケースがありました。

術後腎不全のリスクとなるもの

・ プロポフォールによる腎血流の低下
・ 血圧の低下(麻酔薬、人工呼吸等)
・ ADHの低下(人工呼吸、手術の侵襲)
・ 子宮蓄膿症(敗血症、DIC状態)
・ NSAIDsによる腎血流の低下
血圧、腎血流などに配慮するために、輸液は非常に重要である。